検索したらわかるけど、モラル的に検索するべきか迷うことってある。
例えば、新しく住んだマンションに、過去の住人のDMが届いたとき。それがスクラブ(お医者さんが着る服)の新作告知のはがきで「お、前住人はお医者さんだったのかな?」と興味本位にその名前を検索するか否か。
この場合、わたしは検索しない。そこまで興味もないし。けれど一緒に住んでいた男が即座に検索して「へ〜、美容外科医なんだ」と言っていて、そこ踏み込むんだ、と思った。「表参道の美容外科だって。イケメン」へえ、表参道のイケメン美容外科医ね……。めっちゃ輪郭がわかるね……。
そういう、気になるけど検索するかどうかのラインって人によって違うと思っていて、私はかなり見て見ぬふりをする方というか、人のプライベートな部分に踏み込むってよくないと思っている。これは個人個人のモラルの話。
でも、一回めっちゃ踏んだことがあって。
何年か前の話。女友達が急に「うちの彼氏が浮気しようとしてる」って言い出した。その子はすごく顔が可愛くて、おっぱいがでかくて、男の趣味が悪いんだけど、その日はとにかく怒っていた。猛烈に。
「彼氏が浮気しようとしてるって…… 職場? アプリ?」
「ツイッター」
「ツイッター……?」
彼女は普段SNSをやらなかったので、ツイッターというワードが出たのはかなり意外だった。
頷いた彼女が言うことには、先日、彼氏が寝ている間に男のツイッターアカウントを見た。そしたら、裏垢女子にめちゃくちゃリプライ・DMを送っていた。問題のスクショが共有される。「かわいい」「おっぱいおおきい」「おれ名古屋住みです」等々。
「へ〜、まあまあキモいじゃん……」
「なんか、風俗とかならまだいいけど、こういう女の子と繋がろうとしてるところがキモくて」
「わかるよ、素人を狙おうとしている感じ」
頷けば、共感を得られたことに納得したのか「そうだよね?」「そもそも、私の方が胸大きくない?」「何?名古屋住みって。東海市だろ」と女はわなわなと怒りだした。そう思います。全肯定。怒っている女を逆撫ではできない。
ひたすらに頷いていたら、彼女が唐突に「だから、仕返しをしようと思って」と言った。
「仕返し?」
「うん、裏垢女子になる」
──裏垢女子になる? この時マジで耳を疑って、正気か? と目を見たんだけど、彼女は一切の揺らぎのない顔で「もうアカウント作った」と私にスマホを差し出した。プロフィール画面のトップの部分。
ももか🍑裏垢 @momo_xxx_0625
ももか。いや、それよりお前そんなわかりやすいIDで……。
何も言葉の出てこない私に向かって彼女は「このアカウントで仕返しに浮気するわ」と言った。すごいたくさんの言葉が頭をめぐって、考えて、最後に「いいじゃん」と言った。頷くしかなかった。否定しても意味ないなと思った。
それで家に帰ってきて、風呂に入って、酒を飲んで、ふっと。
──どんな投稿、してんのかな。
その考えが浮かぶ時点でかなりモラル違反だし、お前それはいかんだろと。女友達のエロい姿見るなんて。え、でも、実際見たくない? 正直に言えば見たいよ。かわいい女のエロい姿なんて。てか、本人がプロフィール画面見せてきたし。隠してないだろ。いやでもツイッターの仕組みわかってないのかなあ……。
すごい考えて、しばらく黙って、見た。
@momo_xxx_0625という簡単すぎるIDは一目見ただけで覚えていた。ももかのアカウントがすぐに見つかる。
プロフィール画面から、スクロールする。
──かわいかった。
やり手の裏垢女子みたいな投稿じゃなくて、お風呂に入っててちょっとだけ太腿見えてるやつとか、ちょっと谷間見えてるやつとか、そういうささやかなエロい写真が少しだけ上がっていた。あとは「今日彼氏が早く寝ちゃってえっちできなかった」「むらむらする」みたいな文章だけの日記みたいなやつ。男共のリプライが少しだけついている。「かわいい」「そういうときもありますよね」。もっと攻めてけお前ら、これ中身マジでかわいい女がやってるぞ、と思った。
まあ正直、投稿の部分は良かった。ふんわりしてて。問題が、RTで。ちょっとえっちな写真の投稿の合間にガンガン挟まっている、ごりっごりにえろい裏垢の動画RT。縦動画のハメてるやつ。あ〜そうだアイツ、デカいの好きだったね……と思い出させられるバキバキのやつ。デカすぎて声でてない女子大生のやつ。えろいね、これは……。
そうやってしばらくRTされ続けているえろい動画をぼーっと眺めて、ハッとして。
人の性癖を覗き込んで納得している場合ではなくない? と慌ててツイッターを閉じて、友達にメッセージを送る。
「ごめん、この前見せてもらったアカウントだけど、IDわかりやすいから変えてもいいかも。あれ誕生日とかでしょ? 私一発で覚えたから見れちゃうよ」
な〜にが見れちゃうよ、だ。見てんだろうが。死ねよ。そう思ったけど、「見ました」とは言えなかった。保身だった。死ぬべきだった。
すぐに既読はついて、返信が送られてくる。
「笑」
そして
「見ていいよ」
そのあとに続けて届いた「みさとちゃんに見られて困るものないし」というメッセージに、目を閉じて、開いて、これ、同人誌だったらここからセックスする流れだろ。と思った。そうだ、こういう女だったな、だからずっと好きだったんだよな、と思った。現実なので、ここからセックスしないけど。
それで私は反省して、アカウントの検索履歴を消し、@momo_xxx_0625というIDも忘れた。正直に言えばうっすら覚えているけど、二度と検索はしない。自分の中の線引き。まあ、もう手遅れなんだけど。
それ以来、気になることが検索できるからって、本当に検索するかどうか、本当にインプットするかは一回考えるようにしている。誰かのためにも、自分のためにも。そうやっていい感じにまとめようとしているけど、普通に性欲に負けたカスの話でした。