家賃50万

日々、でかい声で挨拶しているようにしています。でかい声の挨拶は人の警戒を解くからです。コミュニケーションの基本、小学生で習ったことをずっと続けています。嘘です。たぶんそういう病気で、挨拶するのが好きなのでしています。

それで先週の早朝8時。マンションのラウンジにいたおばあさんに挨拶したら、めちゃくちゃ喋るんですよ。たまにいる、お喋りなタイプのおばあさん。温和そうな表情、堅実そうな身なり。あと孫もいた。可愛い男の子。掴まり立ち。
「お孫さん可愛いですね、何歳ですか」
「もうすぐ一歳でね、息子夫婦がここのマンションに住んでて」
へ〜、と相槌をうちながら、右上に視線が上がっていく。このマンション、単身向けこそ安いけど、ファミリー向けとなると多分家賃50万前後なんですけど。息子夫婦が住んでる? 子供が一歳ってことは私と同世代? す〜ごいじゃん。
「それなら、どこかからいらっしゃったんですか」
「孫の初節句のお祝いに宮崎からきたんです」
宮崎から。そらまあ大変でしたねと。遠くからようこそ、西新宿へ。
「でも息子が飛行機代もホテル代も全部出してくれるからありがたいですよ」
「へえ……」
飛行機代もホテル代も全部? 家賃50万の家に住んでて飛行機代もホテル代(西新宿のホテル料金は異常)も出してくれる息子? すごすぎるだろ。
どういうバケモンなん? おばあさん、あなたの息子さんバケモンですよ。
「でも、おばあちゃんがひとりでお孫さん見てるんですね。息子さんはお休みですか?」
「ええ。息子もお嫁さんも本当に仕事が忙しくてね、まだ寝てるのよ」
おい、バケモンが一人増えたぞ。嫁、お前も働いとるんかい。
「じゃ、朝はおばあちゃんがお孫さん見てあげてるんですね」
「そうなの。二人とも疲れてるから、少しでも寝かしてあげたくて」
優しさで後光が差す。も〜全員すごいじゃん……。
「めっちゃいい息子さんですね〜」って言ったら「めっちゃい〜むすこ」のあたりの私の滑舌が悪過ぎて「え?」って聞き返されたので「とても素敵な息子さんですね」に言い換えた。それくらいの雑談だった。

家に帰ってその話を男にしたら「その息子さんさあ、宮崎から出てきてここ住んでるんでしょ? 田舎から出てきて、すごいよね」と返されて驚く。確かにそう。またすごい加点加わるじゃん。東京生まれとはまた違う苦労があったことだろう。
どんな人なのかな。勝手にハイスペ会社員夫婦? と思ったけど、それなら多分普通に家買ってると思うから、会社やってんのかな。役員社宅で借りてんのかな。どういう人生歩んだら、30代で家賃50万の家を借りられるんですか。わかんない、40代かもしれないけど。すごいよ。

あとおばあちゃんがめっちゃ嬉しそうだった。孫抱っこして。息子がいいやつなのわかるよ。初節句、おめでとう。

なんていうか、この歳になると全力でプレイヤーができる人間のすごさっていうものが身に染みて、そういう人たちのおかげで世の中が回ってるんだなと思うことがよくあるんですよね。カス側の人間なので、感謝しかない。まともな労働も何もできないけど、せめて金だけ稼いで然るべきところへ渡していかないといけないなと身が引き締まった日記でした。